不動産を売却したときには、売って得した利益に税金がかかる。
どんな税金がどのようにかかるのか、売却する前に確認しておこう。
①不動産を売却したときの譲渡所得に課税される
譲渡所得は売却価格から売買にかかった費用を差し引いて計算
一般的に人が収益を手に入れると、所得として税金がかかる対象になる。
サラリーマンに毎月支払われる給料が代表的なもので、給与所得のもとになるが、ほかにも自営業者の事業所得や、所有する賃貸住宅から家賃収入(不動産所得のもとになるもの)、懸賞が当たったときの当選金(一時所得)などいろいろある。
不動産を売却したときには、手に入れた利益(売却益)が「譲渡所得」として課税の対象になる。
注意したいのは、売却益=売却金額(売った金額)そのものではないということだ。
譲渡所得はあくまで利益なので、その不動産を手に入れたり売ったりしたときの費用を売却金額から差し引く必要がある。
費用の中にはその不動産を買ったときの金額も含まれる。
つまり、譲渡所得を計算式で表すと以下のようになる。
買ったときの費用が取得費、売ったときの費用が譲渡費用
これらを税金の専門用語で言うと、売ったときの金額は「収入金額」、買ったときの金額と買ったときの費用を合わせて「取得費」、売ったときの費用を「譲渡費用」と言う。不動産の譲渡所得の計算式は以下のとおりだ。
譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用
ちなみに不動産が買ったときより値上がりしていれば売って得したことになり、譲渡所得がおおむねプラスになるが、値下がりしていると売って損をする「売却損」が出ることになる。この売却損のことを税金の用語では「譲渡損失」と呼んでいる。
なお、取得費のうち建物の購入代金や建築費については、築年数に応じた減価償却費相当額を差し引いて計算する。また相続した不動産などで取得費が不明な場合は、収入金額の5%相当額を取得費とすることができる。
また、譲渡費用としては仲介手数料や印紙税のほか、建物の解体費用や測量費などが含まれる。
ただし、売却とは関係ない測量費は譲渡費用にならなかったり、土地の造成費用は譲渡費用ではなく取得費になったりするので注意が必要だ。
②譲渡所得には所得税と住民税が課税される
所有期間5年以下か5年超かで税率が変わる
不動産を売却したときの譲渡所得も所得の一種なので、所得税と住民税の対象になる。
だが給与所得などと異なるのは、不動産の譲渡所得は「分離課税」となっている点だ。
給与所得や事業所得、一時所得などは一年分の所得を合計して税額を計算する「総合課税」となっているが、譲渡所得はこれらの所得とは切り離して計算する。
譲渡所得に対する税額を計算する場合の税率は、売却した年の1月1日現在でその不動産を所有していた期間によって以下のように分類する。
※2013年から2037年までは復興特別所得税として所得税額の2.1%が加算される
●短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合)
39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
●長期譲渡所得(所有期間が5年超の場合)
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
●長期譲渡所得(所有期間が10年超のマイホームの軽減税率の特例)
譲渡所得6000万円以下の部分:
14.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税4%)
譲渡所得6000万円超の部分:
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
所有期間は売却した年の1月1日現在で決まる
例えば売却価格(収入金額)が4000万円、取得費が3400万円、譲渡費用が200万円とすると、譲渡所得は「4000万円−3400万円−200万円」で400万円が譲渡所得だ。この譲渡所得にかかる所得税と住民税は、所有期間により以下の金額になる。
●所有期間5年以下
400万円×39.63%=158万5200円(所得税122万5200円+住民税36万円)
●所有期間5年超
400万円×20.315%=81万2600円(所得税61万2600円+住民税20万円)
●所有期間10年超(軽減税率の特例を受ける場合)
400万円×14.21%=56万8400円(所得税40万8400円+住民税16万円)
このように所有期間によって税額に大きな差が出るので、不動産を売却する際は所有期間の確認が必要だ。特に「売却(譲渡)した年の1月1日現在」でカウントされる点に注意したい。仮にある年の4月1日に買った家を、5年後の5月1日に売った場合、売った年の1月1日現在ではまだ所有期間が5年未満なので短期譲渡所得となり、税負担が重くなってしまう。
※マイホームの売却では各種特例が適用される
なお、売却する不動産がマイホーム(所有者が住んでいる住宅)の場合、譲渡所得にかかる税金が各種特例によって軽減される。ただし、同居していない親から相続した実家は基本的に対象外なので注意が必要だ。
不動産を売却する際には、売って得られた売却益(譲渡所得)に税金がかかるが、一定の条件を満たすと特例が受けられて税負担が軽くなる。どんな特例なのかポイントを知っておこう。
譲渡所得から3000万円を差し引ける「3000万円特別控除」
譲渡所得が3000万円より小さいと税金がかからない
不動産を売って得られた譲渡所得には所得税・復興特別所得税と住民税がかかるが、自宅(居住用財産)を売った場合はその譲渡所得から3000万円を差し引ける。この特例が3000万円特別控除(国税庁HPでは「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」)だ。
この特例を利用すると、譲渡所得にかかる税金の計算式は以下のようになる。
(譲渡所得-3000万円)×税率=税額
もし譲渡所得が3000万円より小さければ、税額はゼロになる。譲渡所得が3000万円を超える場合は、超えた金額に税率をかけて税額が計算される。
税率は売った自宅の所有期間が5年以下か5年超かによって異なり、10年を超えるとさらに低い税率が適用されるケースがある。
例えば譲渡所得が4000万円、所有期間が7年の場合の税額を試算すると以下のとおりだ。
所得税・復興特別所得税:
(4000万円-3000万円)×15.315%=153万1500円
住民税:(4000万円-3000万円)×5%=50万円
合計 :203万1500円
買い替えの場合は住宅ローン控除とどちらかを選択
この3000万円控除は前年または前々年に適用を受けていると利用できない。逆に言うと一度利用したら、翌年と翌々年には利用できないということだ。
③取得費の計算方法
マンションや土地、戸建などの不動産売却で得た売却益(譲渡所得)の計算には、その不動産を手に入れるときにかかった費用=取得費と、売るときにかかった費用=譲渡費用を知る必要がある。ここではまず、どんなものが「取得費」になるのか、計算方法と合わせて確認しよう。
取得費って何? どんな費用が含まれる?
土地や建物の購入代金、税金や手数料も含まれる
不動産を売って手にした売却益は「譲渡所得」として税金が発生する。売却益(譲渡所得)はあくまで利益なので、売却価格から不動産を手に入れるときにかかった費用=「取得費」と、売るときにかかった費用=「譲渡費用」を差し引いて計算することになる。
では、取得費になるものはどんな費用か?──売った土地・建物の購入代金、建築代金、購入するときにかかった手数料や税金、設備費、リフォームなどの増改築にかかった費用、住宅ローンの利息などが取得費となる。具体的には次のようなものだ。
【取得費になるもの】
(1)土地・建物の購入代金
(2)建築代金
(3)購入時にかかった税金(登録免許税、不動産取得税、印紙税など)
(4)仲介手数料
(5)測量費
(6)整地費・建物の取り壊し費用など
(7)設備費
(8)改良費
(9)一定の借入金利子
土地と建物の取得費は分けて計算する
ところで、取得費は土地とマンションや戸建などの建物では扱いが異なるので、注意が必要。土地の場合は買ったときの購入代金や手数料などの合計額が取得費になるが、建物の場合は建物の建築代金や購入代金などの合計額がそのまま取得費になるわけではない。建物は使用したり、期間が経過することによって価値が減少していくため、建物の取得費は購入代金などの合計額から減価償却費相当額を差し引く必要があるのだ。
建物の用途・構造で償却率が異なる
ちなみにこの減価償却費相当額は、建物が事業用(店舗や事務所など)か、住宅などの非事業用かで計算の仕方が変わる。非事業用の減価償却費の計算式は以下のとおり。
非事業用不動産の減価償却費=
「建物購入代金など取得に要した費用」×90%×償却率×経過年数
計算式中の償却率は建物の用途や構造で異なる。例えば、自己居住の木造住宅なら非事業用として通常の建物の耐用年数の1.5倍の年数の償却率0.031を用いて計算する。経過年数は築年数のことで、構造や築年数は登記簿の建物の全部事項証明書で確認ができる。
建物の取得に3000万円要した自己居住・築15年の木造住宅の場合、減価償却費は1255万5000円となる。
<内訳>
3000万円×0.9×0.031×1.5=1255万5000円
したがって、「3000万円-1255万5000円=1744万5000円」が建物の取得費だ。
土地は前述のとおり、購入代金や税金・手数料の合計がそのまま取得費と認められるので、仮に土地を取得するためにかかった費用の合計が1000万円だった場合は、建物取得費と合わせると、「1744万5000円+1000万円=2744万5000円」が土地・建物の取得費になる。
土地と建物の一括購入の場合の取得費は?
マンションや建売一戸建てのように土地と建物をセットで購入しているケースでは、建物分がいくらか分からないということもあるだろう。その場合は、土地と建物それぞれの購入金額を割り出す必要がある。やり方は以下のような方法だ。
(1)建物にかかった消費税から建物価格を逆算する
(2)標準的建築価額により建物価格を計算する
(3)土地と建物の固定資産税評価額の比率で按分して求める
(4)不動産鑑定士の鑑定価格などから土地と建物の時価を求め、その比率で按分する
例えば(1)の方法の場合、住宅価格が4000万円で消費税が200万円だったとすると、以下のように200万円を消費税率8%で割ると建物価格が計算できる。
建物価格:200万円÷8%(0.08)=2500万円
ちなみに住宅価格は税込表示なので、そこから建物価格と消費税を引いた金額が土地価格だ。
土地価格:住宅価格4000万円-建物価格2500万円-消費税200万円=1300万円
購入額が不明なときは概算取得費で
相続などで代々受け継がれてきた不動産や、購入した時期が古く売買契約書などの資料がない場合は取得額が分からないということもあるだろう。その場合は概算で、売ったときの収入額の5%相当額を取得費とすることができる。
ちなみに取得費の証明は売買契約書が基本。もし、紛失などで証明ができない場合は、原則として概算取得費での計算になるが、実際に購入した金額が概算取得費より明らかに多い場合は不利益になってしまうので注意したい。
住宅ローンを借りた金銭消費貸借契約書のコピーやローンの償還表、全部事項証明書で抵当権の設定金額の状況がわかるもの、購入当時の不動産会社の価格が記載されているパンフレットなど、購入価格を証明できるような資料や書類の添付や、購入当時の価額を推定する方法で認められる場合もあるので、税務署に相談してみよう。
また買い替えのときに利用できる買換え特例や、売却して損したときの譲渡損失の繰越控除は3000万円控除と併用できない。なお、買換え特例と譲渡損失の繰越控除についてはそれぞれのページを参照してほしい。
また住宅ローンの借り入れから10年間にわたりローン残高の1%相当額が所得税から差し引かれる住宅ローン控除については、3000万円控除と併用はできない。自宅を売却して新たに住宅ローン借りて買い替える場合、売却益が出ていたら3000万円控除か住宅ローン控除かどちらを受けるか選択する必要がある。3000万円控除を利用しなかったら課税されていた所得税額と、住宅ローン控除で控除される税額を試算して額が大きいほうを選べばいいのだ。
3000万円控除を利用する場合の注意ポイント
以前住んでいた家は住まなくなって3年目の年末までの売却が対象
3000万円控除を利用する場合、注意すべき点がいくつかある。まず対象となるのは自宅の売却なので、自分が住んでいることが原則だ。ただし以前住んでいた住宅でも、住まなくなってから3年目の年末までに売れば対象になる。
例えば病気の転地療養などで一時的に住まなくなっていた場合、病気が治れば必ず戻ってくると認められれば空き家の期間中も自宅として住んでいたものと見なされる。だが、老人ホームなどに転居してそこを生活の本拠としていた場合は、住まなくなった家は自宅とは見なされない。
なお、一人暮らしをしていた親が亡くなって空き家になった実家を相続したケースでは、相続してから3年目の年末までに売却すれば3000万円控除を受けられる場合がある。詳しくは「親の家を売るときの税金の特例」を参照してほしい。
家を人に貸していても控除の対象になる
3000万円控除は自宅に住まなくなってから3年目の年末までに売れば、その家を人に貸していても適用の対象になる。ただし人に貸したままの家を売ると立ち退きの問題などでトラブルになるケースもあり得る。その家を売却する予定があるなら、期限以内の定期借家契約にするなどの対策が必要だろう。
家を取り壊した場合はその1年以内に売買契約を結ぶことが条件
自宅として住んでいた家を取り壊してから売却する場合でも、取り壊した日から1年以内に売買契約を交わし、住まなくなって3年目の年末までに売却すれば、3000万円控除の対象になる。
ただし、家を取り壊した敷地を売買契約の日までに駐車場などとして人に貸した場合は、3000万円控除が受けられなくなる。この点は家を取り壊さずに人に貸した場合とは異なるので注意が必要だ。
④不動産売却時の譲渡費用とは
不動産の売却で得た売却益(譲渡所得)の計算には、その不動産を手に入れるときにかかった費用=取得費と、売るときにかかった費用=譲渡費用を知る必要がある。「譲渡費用」にはどんなものが含まれるのか確認しよう。
譲渡費用って何? どんな費用が含まれる?
不動産を売って手にした売却益は「譲渡所得」として税金が発生する。売却益(譲渡所得)はあくまで利益なので、売却価格から不動産を手に入れるときにかかった費用=「取得費」と、売るのにかかった費用=「譲渡費用」を差し引いて計算することになる。
譲渡所得の求め方
譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)
ここでは、譲渡費用について解説しよう。そもそも売るときの経費が多くかかって、利益(譲渡所得)が少なければ、支払う税金も少なくなる。そのため、譲渡費用はもれなく計上したいところ。
ただし、売るときにかかった経費がなんでも譲渡費用と認められるわけではない。譲渡費用は不動産を売るときに「直接」要した費用で、所得税基本通達等では次のように例示している。
取得費については「取得費の計算方法」を参照してほしい。基本は購入時の価格を指すのだが、建物がある場合は経年変化の影響をとりいれたり、購入時価格が不明な場合は法律で決められた計算方法があったりと、こちらも注意が必要だ。
【譲渡費用になるもの】
(1)土地や建物を売るために支払った仲介手数料など
(2)印紙税で売主が負担したもの
(3)貸家を売るため、借家人に家屋を明け渡してもらうために支払った立退料
(4)土地などを売るための建物の取壊し費用とその建物の損失額
(5)売買契約締結後、さらに有利な条件で売るために最初の契約者に支払った違約金
※土地などを売る契約をした後、その土地などをより高い価額で他に売却するために既契約者との契約解除に伴い支出した違約金
(6)借地権を売るときに地主の承諾をもらうために支払った名義書換料など
維持・管理の費用は譲渡費用にならない
売主が負担した仲介手数料と印紙代は、譲渡費用として認められており、確定申告書にも記入欄が設けられている。そのほか、売却のために借家人を立ち退かせるために支払った費用や、土地を譲渡するために建物を取り壊す費用など、不動産の譲渡価額を増加させるために支出した費用が該当する。
譲渡費用はあくまで売るときに「直接」要した費用であるため、修繕費や固定資産税など、所有期間中の維持・管理のために支払った費用は該当しない。ただし、買主からの要請で売るために行ったリフォーム費用は譲渡費用と認められるケースもある。
譲渡費用にならなくても取得費になるものがある
ほかに、 住宅ローンの抵当権抹消のためにかかった費用や売主の引越し代、売却代金を取り立てる際にかかった費用なども譲渡費用には当たらない。測量費なども、売却のために行った費用であれば認められるが、売却時期よりもずっと以前に行った測量の場合は、売買とは無関係とみなされ譲渡費用には該当しないと判断される。測量は譲渡することが決まったことを受けてから行ったほうが賢明だ。
少しまぎらわしいのは、土地を売るために行った造成費用。これは、譲渡費用ではなく取得費に含められる。造成費用のように、譲渡費用にならなくても取得費として認められるものもあるので、不動産会社や税理士に相談し、サポートしてもらおう。
⑤売却後の確定申告のやり方
マンションや土地、戸建などの不動産を売却したときの税金は、給与などほかの所得とは切り離して課税される(これを分離課税という。そのため、得をしたときには、確定申告の手続きが必要だ。手続きの仕方を具体的に見ていこう。
売却した翌年の申告時期に確定申告する
売却した翌年の2月16日~3月15日が申告期間
不動産を売却したときにかかるのは所得税・復興特別所得税と住民税だ。このうち確定申告が必要なのは所得税で、住民税は所得税の申告に基づいて翌年度分に課税されることになる。
所得税の申告は不動産を売却した翌年に手続きする。申告時期は毎年2月16日~3月15日と決められており、現在の住所地を管轄する税務署に申告が必要だ。
申告方法は所定の申告書に必要事項を記入し、税務署の窓口に直接提出するのが一般的。とはいえ申告期間は約1カ月しかなく、期限が近付くと税務署の窓口が混雑する。忙しい平日に手続きするのが難しい場合も少なくないだろう。
そこで窓口での手続き以外に、郵送による申告書の送付や、税務署に設置されている時間外文書収受箱への投函、さらに電子申告・納税システム(e-tax)による申告という方法も用意されている。
申告書は税務署のほかインターネットでも入手できる
申告に必要な申告書は、最寄りの税務署に行けば手に入れることができる。ただし申告書は毎年その年の分が用意されるので、あまり早い時期に行っても配布されていないことがあるので注意しよう。申告する年が明けたころに行けば、配布が始まっているはずだ。
あるいは国税庁のホームページに「確定申告書作成コーナー」があり、パソコンで必要項目を入力することで申告書を作成することもできる。作成した申告書をプリントアウトすれば、通常の申告書として税務署に提出できるほか、e-taxによる電子申告にも利用可能だ。
この確定申告書作成コーナーはタブレット端末でも利用できる。ただし、e-taxには利用できないので注意が必要だ。
e-taxを利用するには事前の準備が必要
e-taxを利用するには、電子証明書を取得して電子申告等開始届出書を税務署に提出し、利用者識別番号を取得する必要がある。電子証明書とはインターネット上で本人確認をするのに必要なもので、いくつかの発行機関が扱っているが、代表的なのは市区町村が交付するマイナンバーカードだ。
利用者識別番号を取得したら、e-taxソフトをパソコンにインストールして電子証明書の登録など初期登録を行い、申告書データを作成する。e-taxソフトはe-taxのホームページからダウンロードできる。
なお、e-taxを利用すると源泉徴収票などの書類の提出を省略できるほか、申告期間中は24時間提出が可能だ。また譲渡損失の繰越控除などで税金の還付を受ける場合に、通常より早く3週間程度で還付が受けられるメリットもある。
確定申告に必要な添付書類と納税方法を確認しよう
譲渡所得の内訳書は売却後に税務署から送られてくる
不動産を売却して確定申告するときには、申告書のほかにもいくつかの書類を添付する必要がある。主なものは以下のとおりだ。
●譲渡所得の内訳書
譲渡した不動産の概要や売却金額、支払った費用などを記載した書類。売却後に税務署から売主に送られてくるので、記入して確定申告書に添付する。
●譲渡時の書類
売却したときの売買契約書のコピーや売買代金受領書のコピー、固定資産税精算書のコピー、仲介手数料などの領収書のコピーなど。
●取得時の資料
売却した不動産を取得したときの売買契約書、固定資産税精算書、仲介手数料の領収書などのコピー、増改築時の請負契約書や領収書のコピーなど。
●売却した土地・建物の全部事項証明書
法務局(登記所)で入手できる。「3000万円控除」「相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例」の申告では原本の提出は不要。
●戸籍の附票
「3000万円控除」など、各種特例を利用するときに提出する。ただし売却前の住民票の住所と売却した不動産の所在地が同じ場合は不要。
納付時期は申告時期と同じ2月16日から3月15日まで
確定申告の結果、納税が必要になった場合は、申告時期と同じ2月16日~3月15日の期間中に税務署か金融機関で納税する。ただし、申告の際に振替納税の手続きをすれば、4月20日前後に指定の口座から自動引き落としとなる。
納付期限までに全額を納税するのが難しい場合は、延納することもできる。納付期限までに税額の2分の1以上を納付し、残りは5月31日までに納付すればよい。ただし、申告の際に申告書に延納の届け出を記載しなければならず、延納中は年1.7%の利子税が加算される。
税金の還付を受ける場合は、申告書に振込口座を記入すれば還付される。指定口座に還付金が振り込まれるのは通常、その年の4月上旬~5月上旬ごろだ。
なお、住民税は自営業者など普通徴収の場合、申告した年の5月以降に市区町村から納付書が送られてくるので、まとめて納税するか年4回に分けて納税する。給与所得者の特別徴収の場合は、勤務先が毎月の給与から天引きして納付する仕組みだ。
⑥売って損した時に使える税金の特例
マンションや土地、戸建などの不動産を売却したときに、必ずしもトクできるとは限らない。その不動産を買ったときよりも値下がりしてソンしてしまうこともある。でも、そんなときに税金でソンを取り戻せる制度もあるので覚えておこう。
売って損したらその他の所得と相殺できる
売った年から最長4年間の所得税・住民税等が軽減される
不動産を売却したときの譲渡所得がプラスの場合は所得税・復興特別所得税と住民税が課税される。一方、譲渡所得がマイナスの場合は売ってソンをしたことになるので、「譲渡損失」が出たことになる。
譲渡損失には所得税や住民税が当然かからないが、それだけでなく売った年のその他所得と相殺して所得税や住民税を減らすことができる。これを「損益通算」という。
さらに売った年の所得よりも譲渡損失のほうが大きく、相殺し切れない場合は、翌年以降の所得からも繰り越して差し引ける「繰越控除」を利用できる場合がある。これが「譲渡損失の繰越控除」と呼ばれる特例だ。この特例は売った年の翌年から最長3年間の所得まで繰り越して控除できるので、売った年と合わせて最長4年間の所得税等や住民税がゼロになったり軽減されたりする。
買い替えのときに利用できる譲渡損失の繰越控除
譲渡損失の繰越控除には2つのタイプがある。一つ目は自宅を買い替えるときに利用できるタイプで、これを「マイホームの買換えの場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」という。この特例を利用するには以下の要件を満たす必要がある。
所有期間が5年を超える自宅を売ること
この特例が利用できるのは、売却した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるマイホームを売却した場合だ。マイホームとは自宅のことなので、自分が住んでいるか、住まなくなった日から3年目の12月31日までに売却することが要件になる。
また、この特例には期限があり、2021年12月31日までの売却が対象だ。
敷地面積が500m2以内の部分まで
敷地面積が500m2を超える場合は、500m2を超える部分の譲渡損失の金額は繰越控除の対象とはならない。
合計所得金額が3000万円以内
合計所得金額が3000万円を超える場合は、その年は繰越控除を受けられない。
買い替え先の新居にも要件がある
買替え先の新居についても、以下の要件を満たす必要がある。
●旧自宅を売却した年の前年の1月1日から翌年の12月31日までに取得すること
●取得した年の翌年12月31日までに入居するか、入居する見込みであること
●家屋の床面積が50m2以上であること
●返済期間10年以上の住宅ローンを借りて取得すること
所得600万円、譲渡損失2000万円なら3年間は課税ゼロ
例えば給与収入が800万円で所得が600万円の人が自宅を買い替えて2000万円の譲渡損失が発生した場合、特例により所得税と住民税の課税は次のようになる(所得は4年間変わらないものと仮定)。
住宅ローン控除との併用は可能
この特例は、自宅を売却した年の前年と前々年に次の特例を利用していると適用されない。
●所有期間10年超の場合の軽減税率の特例
●3000万円特別控除
●買換え特例
また、売却した年の3年前以内に別の自宅でこの特例や、次に述べる特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例を受けている場合も、適用されないので注意が必要だ。
なお、この特例と住宅ローン控除は併用ができる。ただし住宅ローン控除は課税対象となる所得があることが前提なので、譲渡損失の繰越控除で所得がゼロになった年は住宅ローン控除が適用されない。
上記の例では4年目に400万円の課税所得が発生した年から住宅ローン控除が適用される。その時点で買い替え先の新居に住んで4年目なら、住宅ローン控除の対象期間10年のうち実際に適用されるのは7年間ということになる。
買い替えなくても利用できる譲渡損失の繰越控除
譲渡損失の繰越控除の特例には買い替えなくても利用できるタイプがある。それが「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」だ。
所有期間や所得の要件は買い替えの場合と同じ
この特例の対象となるのは所有期間5年超の自宅で、合計所得3000万円以下の年だけなどの適用要件は買い替えの場合の譲渡損失の繰越控除の特例とほぼ同じだ(敷地面積500m2以下の部分のみという要件はない)。
売却の前日に売却住宅に住宅ローン残高があること
買い替えの場合の特例と大きく異なるのは、以下の点だ。
●買い替えなくても、賃貸住宅や実家に引越してもよい
●売却した自宅について、売却の前日に返済期間10年以上の住宅ローンの残高があること
●自宅の売却価格がその住宅ローン残高を下回っていること
住宅ローン残高から売却価格を差し引いた額が特例の限度額
また、この特例で損益通算と繰越控除の対象となる譲渡損失は、売却した前日の住宅ローン残高から売却価格を差し引いた額が限度額となる。
例えば取得費と譲渡費用の合計が3000万円のマンションを2100万円で売却した場合、本来の譲渡損失は差額の900万円だが、売却時の住宅ローン残高が2200万円だったとすると、特例の対象となる限度額はローン残高と売却価格の差額の100万円になる。これを計算式で表すと以下のとおりだ。
譲渡損失の金額:
取得費と譲渡費用の合計3000万円-売却価格2100万円=900万円特例対象の限度額:
住宅ローン残高2200万円-売却価格2100万円=100万円
特例に必要な手続きは?
売却した翌年と繰越控除を受ける年に確定申告が必要
この譲渡損失の繰越控除の特例を利用する場合、買い替えの場合でもそうでない場合でも、売却した翌年に確定申告する必要がある。また2年目以降に繰越控除を受ける場合も、損失申告用の確定申告書を税務署に提出する手続きが必要だ。
⑦親の家を相続して売るときの税金
親が住んでいたマンションや戸建などの不動産を相続した子が、その家を売るケースは少なくない。そのときの税金はどうなるのだろうか。
親の家を相続して売るときにかかる税金は?
子が住んでいた住宅なら各種の特例が受けられる
相続によって取得した家を売る場合、子がその家を自宅(自身が保有する住宅)として居住していたか、居住していなかったかによって税金に違いが出る。どちらの場合も売却によって発生した譲渡所得に対して所得税・復興特別所得税と住民税が課税されるが、子が自宅として居住していた場合は「居住用財産」とみなされ、以下の特例の対象となる。
●3000万円の特別控除の特例
●10年超所有の場合の軽減税率の特例
●特定の居住用財産の買換え特例
●マイホームの買換えの場合の譲渡損失の繰越控除
●特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除
一方、子がその住宅に居住していなかった場合は上記の特例は受けられず、原則として譲渡所得への所得税・復興特別所得税と住民税がそのまま課税される。
なお、親の自宅だった空き家を相続した場合、一定の要件を満たすと譲渡所得から3000万円を控除できる特例がある。
取得費は親が買ったときの代金などから計算
不動産を売ったときの譲渡所得は、土地や、マンションや戸建などの建物を売った金額からもともとの取得費と、譲渡費用を差し引いて計算する。親から相続した住宅を売る場合は、取得費については親がその住宅を買い入れたときの購入代金や購入手数料などから計算することになる。
住宅を相続したときに子が支払った登記費用や不動産取得税などがあれば、その金額も取得費に含まれる。なお、取得費がわからないときなどには、売った金額の5%を取得費とすることができるが、この場合には子が支払った登記費用などは取得費に含めることができない。
住宅の所有期間は親が取得した日からカウントする
譲渡所得への課税は売った不動産の所有期間が5年以内なら短期譲渡、5年超なら長期譲渡となり、それぞれ税率が異なる。
親から相続した住宅の取得時期は、親がその住宅を取得した時期をそのまま引き継ぐことができる。つまり、親が住宅を取得した日から、相続した子が売却した年の1月1日までの所有期間で長期か短期かを判定するわけだ。
支払った相続税は取得費に加算できる
相続開始から3年10カ月以内に売ることが要件
親から相続した不動産などを売却した場合に、相続したときの相続税のうち一定額を取得費に加算できる場合がある。これを「取得費加算の特例」という。
不動産を売ったときの取得費が大きいほど譲渡所得が小さくなるので、課税額が軽くなるメリットがある。この取得費加算の特例を受けるための要件は以下のとおりだ。
(1)相続などにより財産を取得した人であること
(2)その財産を取得した人に相続税が課税されていること
(3)その財産を、相続開始の日の翌日から3年10カ月以内に売却していること
売却した住宅に対応する相続税額を加算できる
親から相続した土地・建物を売却したときに取得費に加算できる相続税額は、以下の計算式で求められる。
相続税額×売却した土地・建物の課税価格÷(相続した財産の合計の課税価格+債務控除額)
つまり、支払った相続税のうち売却した土地・建物に対応する税額分を取得費に加算できるという意味だ。なお、2014年12月31日以前に相続した土地を売却した場合については、売却した土地だけでなく相続したすべての土地に対応する相続税額を取得費に加算することができる。
小規模宅地等の特例を受けると加算額が小さくなる
なお、親の自宅だった住宅を相続するときに、「小規模宅地等の特例」を利用できる場合がある。この特例はその住宅の土地の評価額が330m2の部分まで20%に減額されるというもの。相続税は財産の評価額に基づいて税額が計算されるので、特例を受けると相続税が大幅に軽くなるケースが多い。
この小規模宅地等の特例を受けるためには、相続した子が被相続人である親と同居しており、相続開始のときから相続税の申告期限(10カ月以内)まで引き続きその住宅に住み、かつその土地を所有していることが原則だ。
親と同居せずに経済的に独立している子がこの特例を受けるには、以下のすべてを満たす必要がある。
(1)被相続人である親に配偶者がいないこと
(2)ほかに親と同居していた親族がいないこと
(3)相続開始前3年以内にその子またはその子の配偶者が所有する住宅に住んだことがないこと
(4)その土地を相続税の申告期限まで所有していること
この小規模宅地等の特例を受けると相続税が軽くなるメリットがあるが、取得費に加算できる相続税も少なくなる点に注意が必要だ。したがって、親から相続した住宅を売却する予定があるなら、小規模宅地等の特例で相続税を減らすほうがトクか、小規模宅地等の特例は受けずに売却時に取得費加算の特例を受けたほうがトクか、考慮する必要がある。
⑧親の家を売る時の税金の特例
親の自宅(親が住んでいたマンションや戸建住宅)を相続して売るときには、相続した子がその家に自宅として同居していた場合を除き、自宅の売却で受けられる各種の税金の特例は原則として受けられない。だが、空き家になった親の家を売るときに受けられる、期間限定の特例があるのでおぼえておこう。
相続した空き家を売るときに受けられる3000万円特別控除
1981年5月以前に建てられ、親が一人暮らしをしていた住宅が対象
親(被相続人)の家を相続した子(相続人)がその住宅や敷地を売り、一定の要件に当てはまれば、譲渡所得から最高3000万円を差し引くことができる。これを「被相続人の居住用財産(空き家)に係る譲渡所得の特別控除の特例」(空き家の3000万円特別控除)という。
ここでいう空き家とは、親が自宅として住んでいた住宅で、次の要件のすべてに当てはまるもののことだ。
(1)1981年5月31日以前に建築されたこと
(2)区分所有登記がされていないこと
(3)相続する直前まで親が一人暮らしをしていたこと
なお、その土地に母屋と離れなど複数の建物が建っていた場合、特例の対象となるのは親が住んでいた建物の床面積割合に応じた面積の土地に限られる。
空き家の3000万円特別控除を受けるための要件は?
2016年4月1日から2023年12月31日までの売却が対象
空き家の3000万円特別控除を受けるための要件は以下のとおり。
(1)親の住んでいた住宅と敷地を相続などにより取得し、売ったこと
(2)2016年4月1日から2023年12月31日までの間に売ったこと
(3)住宅を取り壊さずに売った場合、次の要件を満たすこと
(イ)住宅・敷地を相続してから売却するまで事業用として使用したり、人に貸したりしていないこと
(ロ)住宅が一定の耐震基準を満たすものであること
(4)住宅を取り壊してから売った場合、次の要件を満たすこと
(ハ)住宅を相続してから取り壊すまで事業用として使用したり、人に貸したりしていないこと
(ニ)敷地を相続してから売却するまで事業用として使用したり、人に貸したりしていないこと
(ホ)取り壊してから売却するまで建物などを建てていないこと
(5)相続開始から3年目の年の12月31日までに売ること
(6)売却代金が1億円以下であること
(7)売った住宅や敷地について、相続財産を売却したときの取得費加算の特例(「親の家を相続して売るときの税金」参照)などを受けていないこと
(8)同一の親から相続などで取得した自宅について、この特例を受けていないこと
(9)親子や夫婦など特別の関係がある人に売ったものでないこと。特別の関係がある人には、生計を一にする親族や、内縁関係にある人なども含まれる
空き家を取り壊してから売却することを想定した特例
ここで注意したいのは、住宅を取り壊さずに売った場合、一定の耐震基準を満たす必要があるという(ロ)の要件だ。「一定の耐震基準」とは1981年6月に施行された現行の耐震基準なので、そもそもの要件である「1981年5月31日以前に建築」された住宅の場合、基準を満たすケースはさほど多くないと思われる。仮に基準を満たしていたとしても、建築士などによる診断と証明が必要になる。
リフォームして耐震性能をアップさせる方法もあるが、親から相続した古い空き家をわざわざリフォームして売る人はほとんどいないだろう。つまり、この特例は相続した空き家を取り壊してから売却するケースを主に想定しているということだ。
分割して売却すると売却代金の合計で判断される
要件の(6)で売却代金が1億円以下としているが、敷地を分割して売却した場合はここも注意が必要になる。相続の日を起点として、特例を受けて敷地の一部を売却した日から3年目の12月31日までに、同じ人や別の相続人が敷地の別の部分を売却した場合、売却代金を合計して1億円以下かどうかで判断されるからだ。
空き家の3000万円特別控除を受ける手続き
確定申告の際に市区町村が発行する確認書が必要
空き家の3000万円特別控除を受けるには、売却した翌年に確定申告が必要だ。申告書に添付する書類には、市区町村長が発行する「被相続人居住用家屋等確認書」が含まれる。
この書類はその住宅に親が一人暮らししていたことや、事業用や貸付用として使われていなかったことなどを証明するためのもの。国土交通省のホームページにある申請書を作成し、市区町村の窓口で発行してもらう。その際、電気やガスの閉栓証明書や、売却時に空き家であることを表示した広告の写しなどの書類の提出が必要となる。