※民法が大改正され、一部を除き2020年4月から施行されます
①民法改正で保証が大きく変わる!
民法改正での目玉の一つが「保証」です。個人保証の要件が厳しくなりました。
原則として、保証人本人が公証役場に行き、「保証意思宣明公正証書」という書面で保証することを明確にすることが要件となりました。
さらに、事業に関連して保証を頼む場合、保証人に対して、財産や収支を開示しなければならなくなりました。もし債務者が情報を開示しなかったり、開示した内容が嘘だったりした場合は、保証人によって保証契約が取り消されることもあります。
②民法改正で時効(消滅時効)が大きく変わる!
民法改正により、債権が時効により消滅したという場合の消滅時効が大きく変わりました。
改正のポイントは、
①消滅時効期間の統一、
②時効の完成猶予・更新の制度の新設、
③協議による時効の完成猶予制度の新設の3つです。
消滅時効の期間は、これまでは取引の内容ごとに異なっていましたが、改正により権利を行使することができることを知った日から5年間、権利を行使することができるときから10年間に統一されました。
また、時効の完成を一定期間遅らせるものとして時効の完成猶予、時効の進行を振り出しに戻すものとして時効の更新の名称が新たに用いられることになりました。
さらに、これまでは当事者間で話し合いをしていても消滅時効の進行を止めることができませんでしたが、改正民法では、文書等による合意で時効の完成を1年以内の期間で遅らせることができるようになりました。
なお、施行日以前(2020年3月31日まで)に発生した債権や、原因となる法律行為がされた債権の消滅時効は、原則として改正前の民法が適用されます。
③民法改正で「定型約款」のルールが大きく変わる!
改正ポイントの一つが「定型約款」です。
電気やガスなどの供給、宿泊、保険、運送、通信などの定型的なサービスを提供する特定の者(多くの場合事業者)が不特定多数の利用者との取引において契約の内容とするために準備した条項の総体のことを、改正民法では「定型約款」と呼び、定型約款が有効とされるための要件、事業者による約款の開示義務、取引の相手方に一方的に不利な条項の制限などのルールが、民法に初めて規定されました。
例えば、定型約款を定める事業者は、サービスの提供にあたり、定型約款を契約の内容とすることを利用者と合意するか、利用者にあらかじめ表示することで、「定型約款」の個別の条項について逐一合意しなくても、その有効性を利用者に主張することができます(みなし合意)。ただし、利用者の権利を過度に制限する条項や過大な責任を負わせる条項については、このようなみなし合意の効力は否定されます。
また、事業者が定型約款の内容を変更したい場合には、内容が取引の相手方の利益に適合する合理的な変更であること、変更の効力発生時期や変更内容をインターネットなどで周知することなどの要件を満たすことで、すでに取引を行っている相手に対しても変更の効力を及ぼすことができます。
定型約款に関する新たなルールは、2020年3月までに結ばれた定型取引契約についても2020年4月1日から適用されます。ただし、施行日前2020年3月31日までに契約の当事者の一方から書面やメール等による反対の意思表示がされた場合は適用されません。
中小企業が顧客に提供するサービスの契約内容を定めるのにも定型約款は利用できます。新たなルールのもとで、有効な約款を作るためにも、弁護士の知見をご活用ください。
④民法改正で法定利率が大きく変わる!
利息は当事者同士が契約書等で自由に設定することもできますが、別段の意思表示がないときの利率(法定利率といいます。)は、現在の民法では年5%、さらに商行為については商法で年6%と定められています。しかし、年5~6%というのは市中金利に比べて高率であることが以前から指摘されており、今回の民法の改正により、法定利率も改められることとなりました。
改正民法では2020年4月より、法定利率を一律年3%に引き下げ、3年ごとに見直す変動制を導入するとともに、見直す際のルールを予め定めることとしました。また、債権の存続中に法定利率が変動しても、適用される利率は変動しないものとしました。
法定利率の変更により、企業の債権管理や債権者及び債務者の債務不履行のへ対応など実務に影響を与えることが考えられます。
⑤民法改正で「請負」のルールが大きく変わる!
改正ポイントの一つが「請負」です。改正民法では、請負人の担保責任に関する規定が変更されるとともに、仕事を完成することができなくなった場合などの請負人の報酬請求権の規定が定められました。
仕事の目的物が契約の内容に適合しない場合の請負人の責任は、原則として売買の規定が準用されることになりました。すなわち、請負人の業務の履行が不十分な場合、注文者は請負人に対し、①目的物の修補等、代替物の引渡し、または不足分の引渡請求、②代金減額請求、③損害賠償請求、④契約の解除を請求することができます。
但し、現行民法では注文者は、瑕疵の修補の代わりに損害賠償の請求をすることができると定められていますが、改正民法では、修補が不能であるとき、請負人が修補を拒絶する意思を明確に表示したとき、債務の不履行による契約の解除権が発生したときなど、修補に代えて損害賠償するには一定の条件が必要になりました。これらの請求は、注文者が契約内容に不適合があることを知ってから1年以内に、請負人に通知しなければならないこととされました。
また、請負契約は仕事を完成しなければ報酬を請求することができないのが原則ですが、当事者間の公平の観点から、①注文者に責任がない理由で仕事を完成することができなくなった場合、または②請負が仕事の完成前に解除された場合であって、請負の仕事を分けることが可能で、完成した部分のみで注文者が利益を受ける時は、その利益の割合に応じて請負人は報酬を請求することができることとされました。
その他、注文者が破産手続開始決定を受けた場合の請負人の解除権に関するルールも変更されています。
請負人と注文者の権利義務のルールが変更されていますので、請負契約のひな形を見直す必要がないか確認が必要です。
⑥民法改正で売買のリスク負担のルールが大きく変わる!
中古車や骨董品など替えのきかない商品を取り扱う事業者の方であれば、商品の売却が決まったあとに、商品の盗難にあったり、災害などで商品が痛んでしまったようなご経験があるかもしれません。民法改正により、このような場合の売買当事者の責任に関するルールが大きく変わりました。
これまでは、「替えがきかない物」については、売買契約の締結後から引渡しまでの間に、その物に傷がついたり、無くなったりしたときは、売主に落ち度がない限り、買主がそのリスクを負担して、売主に代金全額を全額支払わなければならないというのが民法の基本的なルールでした。
これに対して、民法改正後は、同様の状況でも、買主は自らに落ち度がない限り、代金の支払いを拒むことができるようになりました。
今後、「替えがきかない物」を販売する事業者は、商品の引渡しまでの様々なリスクに対して、より広く責任を負担しなくてはならなくなりましたので、特に高価な絵画などの販売の場合は、契約書においてお互いに落ち度がない場合における商品が壊れた場合のリスク分担の条項を盛り込むなどの対策をし、売買におけるトラブルを予防することが必要です。
⑦民法改正で売主の義務が変わる!
中古車のような特定物の売買の際、契約前からの欠陥が見つかった場合、買主は売主にどのような請求ができるでしょうか。現行の民法は、「瑕疵(かし)担保責任」という売主の責任を定めていました。瑕疵担保責任だと、その商品に元から欠陥があっても、買主は売主に対して修理や代わりのものを請求できず、損害賠償と買主の契約解除しか求められませんでした。
しかし、このような責任は、必ずしも取引の実情や当事者の意思と合致しないことが多いと指摘されていました。
そこで改正民法では、「瑕疵担保責任」という制度を廃止し、「契約不適合責任」という制度を導入しました。その結果、従前の売主損害賠償及び買主の契約解除に加え、修理などの追完請求、代金減額請求も明文規定が置かれることとなりました。
これら改正に伴い、これまでの売買契約書のひな型は、「瑕疵担保」という文言はもちろん、ひな形では想定されていなかった売主の責任を盛り込むなどの修正が必要となると考えられます。この機会にひな形を見直してみてはいかがでしょうか。
⑧民法改正で売買契約(解除)が変わる!
民法改正により、売買契約の解除の内容が変わりました。
改正のポイントは、①契約上の義務に違反した人に責任がない場合でも解除が可能となったこと、②義務に違反したり怠ったりしても、それが軽微な場合には解除ができないことの2つです。
契約の解除は、これまでは義務に違反した人に責任があることが必要とされていました。
改正法では契約の解除の位置づけを見直し、責任への制裁ではなく、当事者を契約の拘束から解放する手段として位置づけました。このため、契約で予定された義務が果たされない場合には、相手方に責任があるか否かを問わず、契約を解除することが可能になりました。
現在一般的に使用されている売買契約書のひな形では、改正前の民法の規定と同様に、契約を解除するためには相手方に責任があることが前提となっているのですが、このままでは改正法よりも契約の解除が可能な場面が限定されてしまうことになり、場合によっては、商品の引き渡しがされないのに代金支払義務だけ残る事態が発生することも考えられます。
また、改正法では、相手方の義務違反が軽微なものであって、既に履行されたものだけでも契約の目的を達することが可能の場合には、契約を解除できないという判例の理論が明文化されました。このため、それぞれの契約の目的が何であるのかが重要になってきます。
⑨民法改正で店舗賃貸の実務が変わる!
今回の民法改正は、店舗を借りて事業を運営しようと考えている方にも大きな影響を与えると言われています。すなわち、賃貸の保証人として、個人ではなく、家賃保証会社に入ってもらう場合が多くなるということです。
これまでは、ご親族などに保証人になってもらうことが多かったのではないかと思います。しかし、改正民法では、個人に保証人になってもらうためには、保証額の上限を決める必要があり、さらにその保証人に対して、あらかじめ財産や収支の状況などを報告する義務が定められました。通常は、自分の財産だけでなく、収入・支出の情報を洗いざらい報告することは難しいでしょうから、個人に保証人になってもらえるよう依頼することは、今後はハードルが高くなるでしょう。そのため、家賃保証会社に保証を依頼することが多くなるのではと言われています。
その他、民法改正では、敷金のルールなど、さまざまな賃貸借契約に関するルールが定められました。店舗を借りて事業を展開させようと考えている事業者の皆さまは、いちど弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。